2011年10月28日金曜日

追い剥ぎ国家

プロクルステス。舌を噛みそうなこの名は、ギリシャ神話に登場する残虐な追い剥ぎのものだ。山間の街道筋で宿屋を営んでいて、旅人がやってくると無理やり特製のベッドに寝かせる。身長がベッドのサイズに合わないと、重しを付けて手足を引き伸ばしたり、足か頭を切り落としたりしたという。ベッドに身体を合わせるのが彼の流儀だ。軍隊のブラックジョークに「靴に足を合わせろ」というのがあるが、それと同じ基準。

神話世界の暴虐さは相当なものだが、21世紀に暮らす生身の人間に対しても、国家が似たような暴虐さを発揮している。社会保障審議会年金部会が「原則65歳」に向けて引き上げ途上にある年金支給開始年齢を、さらに68 ~ 70歳まで引き上げる案を検討しているというのだ。42.195キロと信じてマラソンを走っていたら、終盤で勝手にゴールの位置をずらされ、さらに再延長となるようなものだ。「財源が不足している」「元気な高齢者が増えている」というのが理由だそうだ。冗談じゃない。それでは「ベッドに合わないから」という追い剥ぎの理屈と、まったく同じではないか。年金を頼りに、つましくもじっくりと残りの日々に向き合いたい。そう考えているひとは多いはずだ。走る距離が長くなったために、受給の前に脱落、では何とも不条理。年金ベッドに合わせるために、寿命を延ばすわけにはいかないのだ。