「なんとか全員に連絡が取れました。大きな被害に遭われた方はいらっしゃらないようです」。安堵の表情を浮かべたのは、ある都内大手生保会社の募集員。仙台市出身だ。東北地方の顧客も多く、震災直後から担当する顧客全員に安否の確認を行い、契約と保障内容を改めて説明したという。
震災後に求められる「経済活動の復旧」とは何を意味するのだろうか。経済活動とは、権利義務の設定とその履行の連続。むろん、権利の濫用や一方的な不利を押し付ける契約は許されないが、自由な契約と履行を原則とする市民社会を正常に機能させなければならない。
そして、保険契約は、災害により直接的に、一斉に発生する権利義務の分厚い束だ。まず被災者が持つこの当然の権利を行使し、保険会社がそれを履行することに遺漏があってはならない。日本の復興のための第一歩として保険会社の責務は大きい。震災後に保険関係者の取材を行う中で、冒頭の募集人のように、それぞれの想いをもって権利行使を手助けしている人に多く会ったことは収穫だった。
しかし、今号で取り上げた地震保険の加入率の低さに表れるように、震災前に締結した自由な保険契約による救済だけでは復興がままならないのは明らかだ。現在、国会や地方議会で、補助金や優遇税制など被災者救済策について議論されている。権利義務を確定するのは法。法を制定するのは議会である。まどろっこしい過程ではあるが、復興を望む市民として、この議論を自ら当事者として考える気概を持ちたい。
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